-- 麻野さん、お気に入りの曲はありますか?
麻野 いや、僕も1曲っていわれると逆に困るな。
-- ああ、もう何曲でもいいですよ。
麻野 じゃあ、まず『思案』(Disc1:10曲目)。もう、これがまず好きなんですよ。
一同 ああ。
中嶋 もちろん考えるっていうところもあれなんだけど、ちょっと「おや?」っていうようなところとか。
麻野 うん。これがですね、なんか神秘的な感じもあって。
坂本 ああ。
麻野 透明感もあるんで。
坂本 ちょうど人間が深呼吸するくらいのテンポにしてるんですよ。
麻野 ああなるほど。
坂本 吸ってーー、吐いてーーみたいな。
中嶋 なるほどね。
麻野 これがまず好きでして。
坂本 ありがとうございます。
麻野 その次が『緊張』(Disc1:14曲目)。これもね、いいんですよ。
中嶋 いいですね、これはね。
麻野 これかかるだけで、本当に嫌な空気に。
一同 (笑)
麻野 一瞬にしてもう予感がよぎるんで。
坂本 はい。
麻野 サウンド面で一番助かるのは、やっぱり一瞬にして空気を支配してくれる曲がいいんで。あまりイントロ的な部分が長くて、急に転調し始めると困るんですよ。
福田 ああ。
麻野 これなんかもう始めのタッチ聴いた瞬間に、もう血みどろとかそういうイメージしかない(笑)
一同 (笑)
麻野 嫌な予感とかね。これはいいですよね。
福田 音楽的には禁則ですからね。
坂本 ああ、もう音同士を当てて、当てて。
福田 なので不快感も出るというか。
麻野 うーん。あとは『神妙』(Disc2:9曲目)とかもそうだし、『胸騒ぎ』(Disc1:15曲目)とか。これも同じような感じですよね。その次の『暗影』(Disc1:16曲目)。これもいいんですよ。
-- 使いやすそうですね。
麻野 これも、さっきの嫌な予感の前のまだその予兆みたいなときにちょうどいいんですよ。さっきまでいくと、もう深刻過ぎてあとへ戻れないんだけど、これだとまたちょっと戻ってこられるくらいの感覚があるんで、怖さの中でも。
中嶋 うん。だから、その分シナリオの内容的にもそういうところ多いんで、もう困ったらこれみたいな感じでした。
坂本 (笑)
麻野 いや、本当に。
中嶋 麻野さん、あとよく使ってはったのは『嫉妬』(Disc1:6曲目)とか。
麻野 これはどっちかっていうとコミカルな感じなんで使えました。いわゆるチュンソフトで出すサウンドノベルって、ホラーとかミステリーとか怖い系が多いんですよ。そうすると、怖い曲は比較的いろんなバラエティー用に使えるんですが、そうじゃないシーンに乗せる曲って意外となかなか難しくて。そういう意味で言うと今回はこれと『ペンション・ブラウニー』(Disc1:5曲目)。
中嶋 あと『失くした原稿』(Disc2:6曲目)とか。
麻野 そう、そう。
坂本 この曲好きです!
麻野 すごく使いやすいんですよ。完璧に明る過ぎると、本当にみんなでワーっと楽しんでるところにしか使えないんだけど、なんかコミカルな中に若干不安定の要素がある曲だと、非常に合うんですよね。
中嶋 うん。
麻野 だから、そういう意味ではものすごく使い勝手いいっていうか。
坂本 福田さん…なんかジョーハープみたいなの使ってます? なんかミニョンミニョンっていってますけど。
福田 あれは、打楽器系のループだったような気が。
坂本 福田さん、打楽器がすごく多くて聞いていて楽しいです。ビブラ…なんでしたっけ。
福田 ビブラフォンですか?
坂本 ビブラフォンじゃなくて…。
一同 ビブラスラップ。
福田 ビブラスラップ、はい、はい。
坂本 ああいうのが入ってたり。僕にはああいう発想がないもので勉強になりました。
福田 いえいえ。
-- ありがとうございます。次は中嶋さんにお聞きしたいです。本CDは中嶋さんに曲順と曲名を決めていただきましたが、特にそのときに気を遣われた点や苦労された点などはありましたか?
中嶋 なんだかんだいうて気を遣うたのはゲームのプレイと合わせるところですよね。「ああ、確かにこのシーンだったよな」とか。「だいたい○○が死んだあとくらいでな」みたいなところっていうのが、ゲームを思い出せるっていうのかな。そういうところは気を遣いましたね。名前はもう考えてもしょうがないんで、「すみません」っていう感じです。
坂本 『混浴ラプソディ』(Disc2:11曲目)も中嶋さんが考えたんですか?
中嶋 うん。
坂本 その瞬間中嶋さんに何が起きたんですか?! そこまで…。
中嶋 そう。2文字とかでやってたけども。
福田 「ラプソディ」ってどういう意味でしたっけ?
中嶋 狂詩曲かな?
麻野 狂詩曲。
中嶋 そんな細かいことはあんまり考えてないです。
一同 (笑)
-- ありがとうございます。もう1点、中嶋さまにまたご質問なんですが、今回お二人へ作曲を依頼されるに当たっての、何か経緯などがありましたら教えていただけますか?
中嶋 坂本さんに声を掛けさせてもらったのはもちろん、『428~封鎖された渋谷で~』とか『ポケモン不思議のダンジョン』でお願いしたものがバッチリだったっていうのがあるんですけれども。ただ、あらためて『かまいたちの夜』というときに、それらの実績はとりあえずおいておいて、またリセットして考えるわけですね。私も初代「かまいたちの夜」の楽曲を作ったんで、なんとなくイメージみたいのはあるんだけれども、さっきのお話に戻ってしまうけど、「ほかの誰でもない自分らしさ」という部分が私の感覚に近い人やなというのは思ってるんですよ。
坂本 うわぉ!初めて聞いた…嬉しいです!
中嶋 「こうなんよ」って言語化しにくいようなところを、あまり伝えなくても多分大丈夫かなというようなところはありましたね。前から『かまいたちの夜』シリーズは「やってる、やってる。バッチリ、バッチリ」みたいな話は伺ってたんで。
坂本 もう隅から隅まで完璧にプレイしましたからね。
中嶋 そう、そう。それがそうでもなかったりとかね(笑)
一同 (笑)
坂本 まさか“アレ”を知らないとは(笑)
中嶋 そう。ブックレットのコメントにも書きましたけど(笑)。ってな感じでございました。福田さんはもちろん『かま2』でサウンドディレクター。
福田 はい、ありがとうございます。
中嶋 『3』で作曲ということで。
-- 熟知しているということですよね。
中嶋 うん。別にリストとかお渡ししなくても、「ああいうのが2曲、こういうのが3曲」って言ったらピンポイントで持ってきていただけるんで。
坂本 福田さんなら、テキストのシナリオだけ読んで、すぐにゲーム画面がイメージできますもんね。
中嶋 「あ、はい、はい」みたいな感じなんで。「じゃあ、飲みに行こうか」みたいなのが早いんで、非常に(笑)。
坂本 あと中嶋さんの発注のされ方が本当素晴らしいなといつも思います。
中嶋 ありがとうございます。
坂本 中嶋さんからいただいたリストを改変して「こういう形で発注をお願いします」って他のいろんな会社の方にお願いするくらい、作曲家にとって作りやすいリストなんです。作曲家側にちょっと考える余地を残してくださるじゃないですか。
中嶋 もちろんです。
坂本 一般的に困るのはYouTubeのリンクとかも一緒に送られてきて。こんな感じの曲みたいなのください!とかっていうケースですね。
中嶋 「じゃあ、それ使えよ」っちゅうね。
一同 (笑)
坂本 アイデアが浮かばず、本当に困ったときとかはそれでもいいんですけど、やっぱりストーリーだとか、映像とかをなるべく中嶋さんや麻野さんと同じ視点でとらえて、そこで自分が0から何を感じるかを見極めて作りたいんですね。あらかじめディレクターさんが感じられたものを
ただ伝えてもらうのは、イメージは明確に伝わりますけど作曲家の中の発想がかなり制限されますし、自分が作る意味というものも薄れちゃう気がするんです。
中嶋 そう、そう。
坂本 そういう意味でも、中嶋さんは作家をすごい大事にしてくださった上で発注してくださるなぁといつも思うわけです。
中嶋 意識してるところであります。今回大半の曲は私からはっきりしたイメージをお伝えしたわけではないんですけれども、いくつか具体的にお願いした中では、音楽的にどうこうっていうところよりは、まず作曲のお二人にはシナリオとかゲームをプレイしていただいて、プレイヤーと私とお二人が同じ気持ちになるっていうところ、そこが一番はじめですよね。そこで大体「こうですよね」って方針が決まったら、あとはもうそんなに話さなくても大丈夫です。
坂本 一番最後にご依頼いただいた曲なんかは「もう何を言っても余計なことになるから何も言わない」みたいなメールをくださいました。
一同 (笑)
坂本 すごい発注だと思いました。発注なのに何も言わないっていうのはすごく新しかったですよ。
中嶋 勇気いりますけどね(笑)。そやけども、そこで外れたものがこないので、いつもありがたいなと思ってます。
坂本 いやいや、とんでもないです。あと中嶋さんのアイデアで1つのモチーフを複数の曲で使おうということになりました。今回、「絆」がひとつのコンセプトになっていると伺っていたので、長調にも短調にもできるメインモチーフのメロディを考えました。
福田 ああ、なるほど。
坂本 『メッセージ』(Disc2:1曲目)では長調でさわやかに。一方『慟哭』(Disc1:19曲目)では短調で悲しく重く。そういう発想で何曲かご用意をいたしました。こういうのベタですけど、やっぱり効果ありますよね。
中嶋 そうですね。
坂本 「聴いたことあるやつが聴こえてきた」みたいな。
-- みなさんありがとうございます。次はゲームの本編についてなんですが、初代の『かまいたちの夜』からずっと変わらないコンセプトみたいなものがありましたら、教えていただけますか?
麻野 音楽に限らずってこと?
-- そうですね。ゲームの本編ですね。
中嶋 うわ、それはどうなんでしょうね。
麻野 ミステリーだよね。
中嶋 ミステリーですね。
坂本 今回は例えば文字を画面いっぱい出さないとか、今までのシリーズからはちょっと変化したなという部分も結構あると思うんですけど、そこはどうしてなんですか?
中嶋 画面、字いっぱい出すとちょっと敬遠される方もあるかなと思ったのと、画面にそこそこ余地があって、後ろのところも見えるっていう感じは良いかと思ったんですよ。あとやっぱり狙ってたわけじゃないんですけども、麻野さんどう思われてるかな…画面いっぱいに出ている昔のスタイルよりも今回の方が読みやすいかなと私は思ったんですね。
麻野 もう慣れてしまったんで、あえて今言われて思ったけど。だから比較してどうこうっていう感覚がもう既にない。
中嶋 多分、前までの『かま』とか見たら、ごっつ字出てきます。
福田 確かにそうですね。
坂本 だから演出ってことでいったら、下のほうまで出してここで改ページしたいとかっていうことができなくなった…言ってみれば演出の自由度が減ったわけですよね。
中嶋 減ってますね。
坂本 その辺でのご苦労だとかなかったんですか?
麻野 いや、あまり、その。結局どこかで切らなきゃいけないので(笑)
坂本 (笑)
麻野 無限に出せないから。
坂本 ああ、そうですよね。
麻野 初めて見たときは若干「あれ? 変わったと思った」っていう印象があったのかもしれないですけど、もう全く今は逆にないんですね。
中嶋 「前からこうやった」っていうくらいの感じなわけですね。
坂本 またちょっと音楽と全然関係ない話ですけど、このレイアウトを前提にした青い人たちの配置だとか、文字になるべくかぶらないようにと意識して作ったりもしたんですか?
中嶋 ホンマは下見せるときは上に字を、とかやってました。横とかっていうのをホンマはやればいいんでしょうけれども、そこまで手回ってないっていうのが正直なところ、ということでいいんでしょうか?
醍醐 はい。
(チュンソフト開発部ディレクター 醍醐頼希氏)
一同 (笑)
中嶋 いい返事ですね(笑)
醍醐 あとは今回、字下げを行ってるんですね。今までって『428』とか全部短い文にして、1字下がってるっていうのがなかったんですよ。
坂本 ああ。
醍醐 「。」が付いたら必ず改行っていうふうにしてたんですけど、今回スペースが小さい、普通の小説のようなスタイルに、より表示をするためにそういうふうにしたりはしていますね。あと1つだけ、特殊な編では普通のアドベンチャーみたいにあえてこれをちょっと逆手に取って、青人間が左と右に出てくる話なんてのも編によってはやりました。
坂本 左と右に出てくる?
中嶋 『TRICKxLOGIC』みたいな。
坂本 ああなるほど。
中嶋 あとは「青人間」っていうところが、初めから変わっていないといえばいないところですかね。
麻野 始まりは1カ所っていうのもそうだよね。他のサウンドノベルはみんな始まりが何カ所もあるんだけど。
坂本 始まり…?場所ですか?
麻野 ストーリーが。始まり方が一編から枝分かれしてるのが『かまいたち』の特徴で、『街』も『428』も『弟切草』も複数の始まりがあるんで。
坂本 なるほど!
麻野 そこは『かまいたちの夜』の結果的な特徴かなと。
中嶋 これどこかで話したかもしれませんけど、体験版確認していただいたときに坂本さんと福田さんのお二人ともそれなりに試行錯誤しながら「今回の音楽の方向性、こうかな?」とか、「ちょっと新しい目にする?」とか、「外し目にいく?」っていうところでゲームの画面を見ていただいたんですが、実写の背景に青人間が立って、字出てきているところである程度もう曲はどんなものをあてても『かまいたち』っちゃ『かまいたち』な感じになるな、という結論に。
坂本 ああ、そうでしたね(笑)
中嶋 別に悪い意味ではないんですけれども、やはり実写に青人間というのはしょうがないくらいの『かまいたちの夜』らしさであって、決定的な特徴的なんだなというふうには思いましたね。
坂本 青い人間使おうって決めたのは誰なんですか?
福田 ああ、それ聞きたい。
中嶋 『かま1』のときは青人間のアイデアを出されたのって麻野さんでしたっけ?
麻野 あのときは、一番初めにシルエットうんぬんって言い出したのは、我孫子さんが言って。
(*初代『かまいたちの夜』脚本担当:我孫子武丸氏)
中嶋 へえ。
麻野 それを、おれと社長で聞いてて、「もうこうしましょう」っていう。
中嶋 なるほど。
一同 ふーん。
麻野 ただ我孫子さんが思ってたのは、むしろ今回のさっき言ってた『TRICK x LOGIC』風の2人でやってるみたいな感じで。
中嶋 ああ、そうやったんですか。
坂本 なんで青なんですか?
麻野 青にしたのはいろいろあったんですけど、まず一番初めは黒だった。
坂本 へぇー。
麻野 オーソドックスなんで、イメージしたんですよ。
坂本 影ですね。
麻野 そう、影なんで。ところがスーパーファミコンで黒を出そうとすると、今みたいに後ろが透ければいいんだけど、透けないので、黒出すと単に背景に穴が開いてるようにしか見えなくて。
一同 ああ。
中嶋 (笑)
坂本 全力疾走して来た人が、すごーくきれいに壁に激突してそのまま走り去ったみたいに見える(笑)
麻野 そう、そう。影じゃなくて穴なんですよ。それでこれはイカンなということで、ブルー。赤もちょっと感情的になり過ぎるのと、血を出したときに赤と赤じゃかぶるじゃないですか。
坂本 ああ。
麻野 そんなこんなでいろいろ試行錯誤したら、ブルーが一番感情的にはダウン系で落ち着くし、ちょっと寒々しい感じもあって、いろんなことも含めて「ブルーがいいな」と。実は、初代『かまいたちの夜』では、青人間以外にもいるんですよ。確か赤人間か緑人間かいたと思うんだけどね。何かで。
坂本 『悪霊編』とかですか?
麻野 一瞬だけ出してると思うんですよ。…あれ?もしかしたらおれの記憶違い。
一同 (笑)
中嶋 全国から突っ込みが入ってきますよ(笑)
麻野 なんかあったような気がするんだよ。
中嶋 青ちゅうか紫ぽかったんですけどね。
麻野 うん。青以外のもしかしたら重なり過ぎて分かりにくいとか、あるいは死体とかっていうので、若干色を変えてやってたような気もするんで。
中嶋 そうやったかいな。
醍醐 『2』も結構変えてましたよね。
麻野 色を?
醍醐 色を。
麻野 そうでしたっけ。
醍醐 なんか怒ったとき赤くなってたりとか。
中嶋 ああ、ありましたね。確かに。
坂本 『1』のときは、もう本当にベタ塗りな青人間でしたけど、『2』から着るものがうっすら見えたりとリアルになりましたよね。
麻野 そうそう。
福田 陰影が付いたりしましたね。
中嶋 そうですね。
麻野 影に影が付くっていう。
福田 影に影が(笑)
一同 (笑)
福田 立体感が出て。
坂本 一目見て『かま』だって分かりますもんね。完全に特徴になってますから。