龍が如く 見参! サウンド制作者インタビュー 庄司英徳・坂本英城・いとうけいすけ・加藤浩義・湯川強 トップページへ戻る

『龍が如く 見参! 』

日本で大人気を誇るタイトル「龍が如く」シリーズは北米での人気も高いのだが、「極道」を背景にしたこの日本ならではのゲーム設定。海外のユーザーに同等に楽しんでもらうために、緻密な翻訳作業が必要になるわけだが、シリーズを通してローカライズがなかなか実現されないという現状があるのはこのテーマ設定のためかもしれない。

今作の「龍が如く 見参!」では宮本武蔵を主人公に世界が繰り広げられるわけだが、日本のサムライをテーマにした内容という事で西洋のファン待望のローカライズにはさらに慎重な作業を要したようだ。音楽もまた、ロックの要素に古楽器を混ぜるという大変面白い仕上がりだ。今回の記事では「龍が如く」シリーズ制作に携わったコンポーザー、サウンドデザイナーの方々5名にお集まりいただき、シリーズを通してのサウンド制作についてお話しいただいた。

インタビューに参加いただいたのは、作曲家、庄司英徳氏。「龍が如く」シリーズの最新作がPS3にて進められているが、その音楽を担当しているのがセガのコンポーザー庄司英徳氏だ。さらに音楽制作会社ノイジークロークよりディレクターの坂本英城氏。坂本氏には以前「悪魔城ドラキュラ ジャッジメント」のサントラ制作についてもお話いただいた

ノイジークロークより加藤浩義氏、いとうけいすけ氏、湯川強氏の三名もそれぞれ今作のサウンドを手がけ、それぞれのお仕事についてお話しいただいた。ゲーム「DANCE DANCE REVOLUTION」のダンスミュージック作曲を担当した加藤氏は今回主にミニゲームの音楽を担当。遊女のシーンを担当した、いとう氏はゲーム「銃声とダイヤモンド」の音楽もソロで担当し、サントラが先日リリースとなっている。ゲームの要素でも重要な、効果音部分を担当した湯川氏は「龍が如く2」よりシリーズの制作にサウンドデザイナーとしての重要な役割を担っている。

ゲームのストーリーが時代劇スタイルと初めて聞いた時どう思いましたか。それはいいアイデアだと思われましたか。

Videogame composers Hiroyoshi Kato and Hideki Sakamoto

庄司英徳:  最初は冗談だと思いました。

音楽についてどう思われましたか。

庄司: 時代劇ということで、古風な昔の「和」の音をもっとフィーチャーするべきかという悩みは初めはあったんですが、宮本武蔵が桐生一馬之介になっているっていう設定の段階でもう時代考証っていうのは関係ないなと。

これはもう「イッツ エンターテイメント!」っていうことで現代のロックとかをベースにしよう、っとなりましたね。

もちろん「和」の音も入れるべきところは入れたいなっていう気持ちはあったんで、締めるところは締めて、突き抜けるところは突き抜けてしまうようにしました。

庄司さんは“TAKUMI”という曲の現在のバージョンがありますけど... その曲についてお話をきかせてください。

Hidenori Shoji

庄司: 古牧(こまき)というキャラクターがシリーズを通して出て来るんですけど、2まで修行のシーン専用の曲がなかったんです。

修行をして得られる物というのも本編とはまったく別のものなので、専用に特別曲を書くということはしてなかったんですけど、『見参!』になってからは割と修行をして強くならないと本編で大変な目に合うというゲーム内での位置づけが大分変わって来たので、『見参!』の時には修行のシーンも盛り上げましょうという話になりました。専用の曲を書くようになって、『見参!』以降『龍が如く3』でも古牧と言えばこのテーマ!みたいな位置づけでアレンジして使いました。

坂本さん, ノイジークロークについて説明していただけますか。

坂本:  株式会社ノイジークロークの代表取締役の坂本英城と申します。『龍が如く 見参!』の劇伴部分で主にお世話になりました。他には、『無限回廊』は『勇者のくせになまいきだ。』などのサウンドを作っています。

いつ設立されましたか。

坂本: 2004年3月からですので、ちょうど5年目になります。僕自身がフリーランスでゲームのサウンドを作っていた時に、ちゃんとした「会社」じゃないと、メーカーと契約ができなかったという理由で法人化しました。なので最初の二年間は一人で会社を運営していました。

過去に音楽の勉強は専門的にされていたのですか。

Hideki Sakamoto

坂本: 4歳のときからピアノを習っていたくらいで、他は好きな音楽を聴いてコピーしてみたりだとかっていうことをやっていただけです。ゲームは小学生のときに出会ってから夢中でやりました。その時にファミコンブームがありましたが、その前に「カセットビジョン」っていうものがあったんです。もっとさかのぼれば「ゲームウォッチ」ですよね。

小さいときから本当にゲームが大好きで、まあこれはあちこちで言ってますけど、当時ピアノを習っている男の子というのは珍しかったので、よくからかわれました。ところが、ある時ゲームの音楽をピアノで弾いてみたらヒーロー扱いされて勘違いしちゃったみたいな感じです。

そのときはゼルダとかマリオとかドラゴンクエストとかを弾いた気がします。みんなに「弾いて!弾いて!」と学校の音楽室で言われてました。そして先生が来て「授業はじめるぞ!」「きゃ〜!」みたいな感じです。

ゲーム音楽を作りたいと思われたのはいつ頃でしたか。

坂本: それが中学の時なので、作曲にも興味がありましたし、ゲームも好きだったので、親に無理を言ってパソコンを買ってもらいまして。当時は「MML」っていって自分でキーを打ち込んでFM音源を鳴らして「にんまり!」みたいな。そんなことをずっとやってました。

最初に仕事を頂いたのは23歳の時だったと思います。「予算がないからお前にしか頼めない」って言われて(笑)。確かパソコンソフトの音楽でした。

現在の従業員の数は何人ですか。

坂本: 現在、社員が3人でアルバイトが2人、作曲家が10人ちょっとです。

スペシャルイベントなどの予定はありますか。

坂本: そういったイベントの予定はないんですが、来月6月の中旬にゲーム音楽作曲の大御所と言われている人たちをここに集めて皆で騒ごう!っていう会があって、そこではビデオも撮り、写真も撮り、みなさんの会話をテキストにまとめて、ノイジークロークのサイトで公開しています。出演していただく方が庄司英徳さんはじめ光吉猛修さん、佐野電磁さんってご存知ですか。『リッジレーサー』シリーズで知られる佐野信義さんのことなんですが。それからスーパースイープの細江慎治さん。モンスターハンターの甲田雅人さん。『クロノトリガー』の光田康典さん。それからブレインストームの中村隆之さん。それからいとうけいすけくん。で、私、坂本英城。

みんな集めて一般のユーザーの方からの質問を一ヶ月くらいの間募集して、その質問に対してみんなで議論するという形のものです。

あとはノイジークロークのスタッフだけでバンドを組んでライブをやろう、やろう、という話はあるんですけど、例えば「ドラムやりたい人!」って言ったら5人くらい手を挙げてしまって全然まとまりがなくて出来てないんです(笑)。

ノイジークロークが『龍が如く2』にどのように関わるようになったのか教えて下さい。

坂本: 最初に、別件でWiiの「スーパーモンキーボール」の仕事を先方からいただいて、その時に「僕は『龍が如く』の大ファンで...」みたいな話をしていたら「それでは2でのお手伝いをお願いできますか」と言って下さって、それがいきさつです。

『龍が如く 見参!』に関するどんな音楽を作りたいと思いましたか。

坂本: 最初は色んなアイデアがありました。ヒップホップにしようとかラップを入れようとか。でも僕らが担当させていただいていたのは、動画に付く音楽だったので、やっぱり観る人は映画のような感覚で観るじゃないですか。

なのでここは外さないでストレートで行こう!ってことで、和風オーケストラみたいな感じの曲にだんだん絞られて決まった、という感じですね。最初は本当に試行錯誤してて、加藤君がデジタル系のアプローチでサンプルみたいな物を作ってくれたときもあったんですけど、やっぱり合わない、みたいな感じで。

三味線とか鼓とか。動画の中で後ろで楽器を演奏しているようなシーンがあったところが、映像に演奏を合わせる必要があったので一番大変だったような気がします。太鼓とか、鼓、三味線、尺八みたいに、いわゆる聴いてすぐ日本の楽器と分かるような楽器は積極的に使っていったと思います。

『龍が如く 見参!』のミニゲームはどのようなゲームですか。

加藤浩義: さっき出た滝修行ととっくりボーリング、それからカルタ。いわゆる日本の伝統的な遊びのゲームが3つか4つあります。共通して使われている曲も多いんですけども。

どんな音楽を作りたかったですか。

Hiroyoshi Kato

加藤: ミニゲームでもさっきの滝修行とトラディショナルな遊びとはまったく別で。『龍が如く』自体の音楽にしてもストーリーにしても振り幅が広いんですね。シリアスだったりジョークがあったり。だからミニゲームではちょっとコミカルな部分を出そうかなと思って楽器とかも昔の楽器を使いました。

ゲームは昔から好きですか。

加藤: 小学校の頃、坂本さんと同じでゲームばっかりやっててゲームのサントラとか買ったりして、その後は、高校くらいからはバンドをやってました。バンドとコンピューターミュージックをやっていました。最初はゲーム音楽からはちょっと離れていていわゆる従来のレコード会社の音楽ですとかダンスミュージックを多くやっていました。

ゲームの中の音楽でも歌の入った音楽とかも多くなってきて、いわゆる昔からのゲーム音楽とポピュラー音楽との差があまりなくなってきて、それでその時にノイジークロークに行き会ったという感じです。それで坂本さんにお会いして、彼の人柄に惹かれて今に至るという訳です。

『見参!』のプロジェクトの中で何かおもしろいことはありましたか。

加藤: いわゆる生楽器とエレクトロニック楽器のミックス。正直なところ、僕もあんまり考えてはいないんです。ただし『見参!』にしても日本っぽいフレーズとかそういうのは意識しなくても染み付いているものなので、特に混ぜて...難しいですね。 昔で言えば反対の方向の音楽なのでミスマッチと言われてたんですが、最近の世界的なダンスミュージックでもロックでもなんでも結構日本の楽器が取り入れられていたり日本語のセリフが入っていたりすることが多くて、ミスマッチと思いつつ「俺が良ければいいのかな」という感じであまり考えずに。

いとうさん, 自己紹介をお願いします。

Keisuke Itou and Hidenori Shoji

いとう: ノイジークロークで作曲をしているいとうけいすけといいます。今までさせていただいたお仕事では今回の『龍が如く 見参!』『龍が如く3』、その他には『ポケモン不思議なダンジョン』とか『忍道 戒』という忍者ものですとか、色々やらせていただいてます。

サウンドトラックでは、夢路屋とあざみ屋というお店のシーンの曲を作りました。これは何かというと日本の昔の京都という都市の中にある祗園という町の中にあるお店なんですが、簡単に言うと女の子と遊ぶ店です。

そんなお店の音楽を作る、ということなんですが、『龍が如く』はシリーズ内でキャバクラというものが出てきます。まあやってることは一緒なんですが、格調の高いお店という設定なのでエロスなのではなく高級に、上品に女性と遊ぶ為の音楽、みたいなものを求められたのでつややかで高貴なものを日本の伝統音楽に沿って作ってみたという感じです。 また、サウンドトラックには収録されておりませんが、ムービーの劇伴曲はほぼすべてノイジークロークで制作していまして、そのうちの大半は私が制作しています。キャラクタの動きや演出に合わせて曲を変化させていますので、是非ゲームをプレイしながら聞いて頂ければと思います。

Keisuke Itou

伝統的な日本の音楽自体に興味はありますか。

いとう: 興味はあります。 まあ雅楽という日本の固有の楽器を使って音楽プラス舞踏というか舞、まあ言ってみればダンスと音楽が一体した「能」という日本の文化。そういうところに興味があります。

湯川さん, どんなSFXを作りましたか。

例えば『龍が如く2』であれば、基本的にビルに囲まれているところで人の会話のシーンがあったりするんですけど、『見参!』の時は周りが森だったりとかそういう環境になりますので、それに合う環境音などの制作を進めて行ったという感じです。

『見参!』の制作についてどう思われますか。

湯川: 『龍の如く2』から制作を担当させていただいているんですが、2のときは現代の時代設定なので車の音ですとか、わかりやすくてイメージしやすい音なんですが、『見参!』の時は時代設定が全然違うので、その辺がある意味SFXは想像で色々と音を考えて環境音などは作っていったという感じです。

制作にあたってリサーチはされましたか。

Tsuyoshi Yukawa

湯川: 時代劇は色々と観ました。ドラマからたけしの『座頭市』ですとか。それで「ああ、こういう感じの音になるんだ」という情報は集めました。天啓ムービーというのは町を歩いていて鳥が飛んで急降下するシーンとかがあるんですが、そういうところをパッとみた時に何か技を思いつくみたいなそういうシーンがあったりとか、猫がねずみを追いかけて捕まえるシーンですとか。

サブストーリーであれば、僕の大好きなキャラクターなんですけど、それは1からずっとシリーズを通して登場してるキャラクターなんですが、秋本くんというちょっとダメダメなキャラクターがいてですね、『見参!』の中では遊女に騙されているんですけど、彼がお金を巻き上げられてしまうシーンですとか、そういったシーンの感情の部分も効果音で気を使って表現しようと努力しました。

庄司: その季節独特の環境音ってあるじゃないですか。例えば春のシーンで鳴いてちゃいけないはずのカッコー鳥が鳴いてるとか、そういう部分を取り外したりする苦労などもありますか。

湯川: その時代の森に生息していた鳥なんかをネットで調べたりとかしました。そういう所って結構聞き流されちゃう部分かもしれないんですけど、そういうところをちゃんとやってる自分に悦びを感じるというか。

このページのトップへ