真かまいたちの夜 11人目の訪問者(サスペクト)音楽座談会

作曲の際に参考にしたゲーム以外のメディアはありますか?

-- ありがとうございます。次は作曲に関してなんですけども。さっき坂本さんからはお話が少し出ましたが、作曲するに当たって何か参考にした映画やドラマなどのゲーム以外のメディアはありますか?

福田 プロフィールにも書いてるかもしれないんですけど、海外ドラマですね。完全に。

一同 おお。

坂本 『フリンジ』とかああいうやつですか?

福田 それもそうなんですけど、『フリンジ』はSFなんで違うんですけど…。

坂本 サスペンス?

福田 サスペンスです。「サイコスリラー」が結構好きなので、今回は多分『クリミナル・マインド』とかその辺の。

一同 ああ。

福田 雰囲気というか、なんというか。結構参考にしたかもしれないです。オーモリ君の曲は別ですが(笑)

坂本 僕は邦画ですから、ちょっと違いましたね。

福田 でも、基本的には方向性的には近いものがあると思うんです。ドラマもものによっては既成の歌ものとか使ってるものがいっぱいあるじゃないですか。じゃなくて一応劇版として作ってるものを使ってるやつを聴いてみたという面では一緒だと思います。

坂本 なるほど!でも今回は作るの怖かったですよ~。夜中に怖~い曲をたくさん作るわけですよ。

麻野 ああ、怖いっていうのはそういう意味。

坂本 出来上がった曲を1人で何度も聴きながら、ヘッドフォンで確認してるじゃないですか。ふっと左肩の後ろに人の気配とかがするんですよ。そういうとき。

一同 (笑)

麻野 1人で作ってるんですか?

坂本 はい。会社に自分の部屋があるもんで…。作りながら作曲家人生で初めて「怖い!」と思いましたね。

麻野 割とかわいいな。

坂本 てへ(笑)。あと、ちょっとが話ずれますけど、本当に『かまいたちの夜』の大ファンだったので…。

麻野 ありがとうございます。

坂本 はい。最初にお話をいただいたとき、本当にうれしかったです。中嶋さんからたしかとあるホテルのロビーでお話をいただきました。

中嶋 そう、そう。

坂本 あのときに「絶対やらせてください」って言ったんですけど、1つ残念だったのは、最初の打ち合わせで「それでは、打ち合わせをはじめます。まず、この人が犯人なんですけど」っていきなり核心を言われたことでしたねぇ。

一同 (笑)

坂本 サラっとまず犯人を言われてしまった。

中嶋 しょうがないじゃないですか(笑)

一同 (笑)

坂本 は、はい…しょうがないのですが…。

麻野 でもそれ、言う必要あったかなぁ?

一同 (笑)

中嶋 そうか…登場人物でなんだかんだとか、よく考えたら、何一つ言う必要なかったと思います(笑)

麻野 ないよね(笑)

一同 (笑)

坂本 ちょっと待ってください!!勘弁してくださいよー!!

一同 (爆笑)

坂本 これまた音楽の話じゃないんですけど、当然みなさん犯人を分かった上で作業されてるじゃないですか。「ここまでの伏線ならプレイヤーに情報をリリースしてもギリギリ犯人を言い当てられることはないだろうな」とかっていう線引きってどうやって判断されてます?

中嶋 ヒントとかってこと?

坂本 例えば「これ言っちゃったらプレイヤーに犯人が誰かって気付かれちゃうかもな」って悩むようなところがきっとあるじゃないですか?その、プレイヤーを翻弄する絶妙なラインの設定です。 僕はもちろんシナリオは書けないんですけど、犯人が誰か分かっている状態でシナリオ書かれるときに、読む側に分からないようにさせる仕掛けっていうのが、すごく難しそうな気がするんですけど。

麻野 でも、トリックと犯人が分かるのってまた別だったりするじゃないですか。つまり、さっき言った「これはヒントかな?」っていうのが分かったとしても、そのヒントがどう解明につながっているかっていうのは意外と分からなくて。

坂本 ふむふむ。

麻野 ミステリーを読んでて、「こいつが怪しいな。犯人かな」と思い込んだり、

恐らくこのエピソードがヒントだっていうのが結果的に当たってたとしても、それだけにしかすぎない。三段論法で言うと、AとCはあるけど、Bが抜けてるから、完全な推理になってない。

坂本 ああ。

麻野 だから、読者が「俺、読んでてわかってたんだ」と言っても、それだけだと説得力ないかなと。そういう風に思わせるようにはシナリオを書けるんじゃないかなと、思うんです。

坂本 意味を抜かすように作るってことですか?

麻野 わざと意味を抜かすというよりは、結果的にそこがミッシングリンクになっていった方がイメージには近いんですけど。最後まで読まないとスッキリしないように書くことはできると。それが動機に関わってたりすると、感情的なカタルシスも作れるんじゃないかなと思うんですよ。

坂本 ミスディレクションをしたりとかもするんですか?

麻野 最近のミステリーとか映画には多いですよね。今回はどうなのかな。今回、でも、あえてミスディレクションするようには持っていってないよね。あるのかな。

醍醐 思い違いを利用したトリックっていうのは、『かまいたちの夜』で。

麻野 もちろんそうなんだけど、でも思い違いっていっても、もっとモロにミスディレクションを誘導してるようなの最近ものすごく多いんで。それに比べるとかなりオーソドックスな手法だよね。

醍醐 そうですね。

坂本 「かまいたちの夜」シリーズの主人公は、プレイヤーイコール主人公じゃないから、プレイヤーではなく、主人公側がこう思ったっていうことで進めて、ミスディレクションさせるっていうことですよね。

麻野 っていうのを、露骨にやってるような映画とか最近、本にも多いんですけど、それは今回はあんまりないかなという。多分、坂本さんが今聞きたがってる話は恐らく、僕らよりかは作家さんのほうが直接関係あるのかなと思いますけどね。

坂本 ああ、そうですね。なるほどです。

麻野 どこまでをヒントとして出すかっていう。

坂本 はい。

麻野 割と僕らは、作家さんが書かれてきたものを見て、読んで、いいと思えばそのよさを最大限に出すために注力するところがあるんで。

中嶋 でも、その犯人当てに至るところの分岐とかはこっちの作業になってきますやん。『かま』のときってほとんど、我孫子さんが犯人当てに至るところの分岐も書かれたんですか?

麻野 うん、そう。

中嶋 なるほどね。

坂本 ふーん。

麻野 っていうか、回を追うごとにその辺が緻密になってる。もうちょっとざっくりしてたよね。『1』の頃とか。

中嶋 そうかもしれないですが。

坂本 それこそ音の当て方とか難しいと思うんですよ。犯人が出てきたシーンで、特に後半とかで出てきたときにどういう曲当てるかで、プレイヤーに真相が分かっちゃう。

麻野 それはないですね。

中嶋 ない、ない。

坂本 大丈夫ですか。へえ。

麻野 うん。だって、基本的に僕ら主人公の快人だったら快人の思ってることに忠実に音を当てるんで。

一同 ああ。

麻野 例えば「こいつ怪しい」と思ったら、怪しい曲。で、「こいつは怪しく思いたくない」と思ったら、怪しく思わないようにって当てていってるだけなんで。

坂本 なるほどー!面白いです!!

麻野 それはあくまでも快人の主観じゃないですか。それを客観的にどうとらえるかはプレイヤーが見ながらとらえるので。だから、あからさまに犯人が出たときに怪しい曲流すとか、あるいはその逆をするっていうのはやらないですよね。むしろ、気をつけるべきは映像的なことです。小説って絵が出ないんで、絵にしてしまうと身もふたもないっていうことがもしあると結構きついです。本作のことっていうよりも、一般論として。

一同 ふーん。

できあがるまでに一番苦労した曲は?

-- 作曲家の坂本さんと福田さんにお聞きします。できあがるまでに一番苦労した曲はどれですか?

福田 さっきも話に出てきた『失くなった原稿』(Disc2:6曲目)ですかね。まさしく麻野さんがおっしゃってた通り、コミカル過ぎず不安感も残しつつっていうのが、結構苦労した。

麻野 いや、苦労は報われてますよ。

福田 (笑)

麻野 妙なんですよね。怪しい感じで。

福田 不思議な感覚ですよね。

中嶋 でも、ゲームをやってもらったら分かると思いますけど、使われてるシーンは快人君の書いた小説が流れるところで、それの内容がとても面白いんで(笑)

福田 どこで流れるんだろうと思って読みました、読みました(笑)。いろんな彼の小説が書いてあるじゃないですか(笑)

中嶋 (笑)

福田 それを読みながら「おもしれえな、これ」と(笑)。でも当然世の中に出てない小説なんで、主人公の不遇さが必要じゃないですか。だからその表現がちょっと難しかったですね。

坂本 僕は『追慕』(Disc2:10曲目)かな。もともとの発注時のタイトルは「悲しすぎない悲しみ」っていうタイトルだったんですよ。

麻野 「悲しすぎない悲しみ」。

福田 (笑)

坂本 「悲しすぎない悲しみ」。なんか日々の生活に例えたらどんなことなんだろうと考えるじゃないですか。

福田 10円落としたとか(笑)

一同 (笑)

坂本 なんか本棚の下の方に足の小指ぶつけたとか。

中嶋 目の前でドアが閉まって電車が行ってもうたとかそんな感じ(笑)

麻野 電車が(笑)

坂本 ああ、そうです、そうです(笑)

一同 (笑)

麻野 電車が行ったのに「タララー」って(笑)。それコメディーじゃない、それじゃ。

一同 (笑)

福田 目の前で閉まるとか、そこまでは悲しくはないけど、悲しいっていう。

坂本 はい。そういうことを色々考えて、そういうときに何が聴こえてくるのかなって。

麻野 これが聴こえてきたんですね。

一同 (笑)

坂本 これが聴こえましたね。

麻野 なんかガッカリした。今そのエピソード聞いて。

一同 (笑)

中嶋 どこかのバッドエンドで使ってたんですからね。

麻野 いや、もうちょっとおれ、かっこいいイメージでこれとらえてたんで…。

中嶋 (笑)

麻野 10円落としたとか、電車の目の前でドアが閉じたとか、そういうせこい、小さい悲しみ…。

坂本 でも、10円も地面じゃなくて川の中に落としたので、結構取り返しがつかない感じの方向の悲しみですよ。

福田 絶対取れないんですよ。

中嶋 そしたらこんな感じ。

麻野 どっちにしても(笑)

一同 (笑)

坂本 「なんで自販機の下に排水溝あるの?」みたいな感じですよね。

中嶋 そう、そう(笑)

麻野 そんな曲ですかね。

一同 (笑)

坂本 くらいの、悲しみを。

福田 「悲しすぎない悲しみ」っていうね。

麻野 ちなみにこの「悲しすぎない悲しみ」っていうのは、中嶋君のほうから振るときにこういうのでっていう?

中嶋 私というよりサウンドのスタッフからですね。

麻野 僕が持ってたのは、もっと都会的なかっこいい印象だったのに(笑)

一同 (笑)

坂本 もう1個、すごい悲しいっていうのがさっきお話をした『慟哭』(Disc1:19曲目)だったんです。

麻野 確かに比べるとね。

坂本 これはもう、親戚という親戚を片っ端から撲殺しまして。

一同 (笑)

麻野 どうりで差が…

坂本 「お父さーん!お母さーん!ごめんなさーい!」とか言いながら僕、夜中に作ってたんですよこの曲。

一同 (笑)

麻野 難しいな。理屈とまた違うからな。これはもう名曲だし、先ほどの曲もすごく好きなんですけど、同じベクトルとは僕はあんまりとらえなかったですね。

あっさりとできてしまった曲は?

-- ありがとうございます。次、今の質問の続きみたいになってしまうんですけど、逆に一番あっさりと簡単にできてしまった曲などはありますか?

坂本 申し訳ないくらいあっさりできちゃうときとかありますよ。

福田 ありますね。妙にはまってね。もう考えた瞬間にできちゃうっていうのありますよね。

坂本 あります、あります。

中嶋 へえ。

福田 「わあ、ラッキー」って思います。時給換算すると。

一同 (笑)

福田 しかも、全然詰まらずに、もうあっさりと本当に曲全体ができちゃうんで、時間だけ見ると本当に2、3時間だったりすると。

麻野 本当にうれしそうに言うね。

一同 (笑)

福田 うれしいけど、申し訳ないなって感じで(笑)

麻野 いやいや。結果よければいいんでね。

福田 それがさらに評価していただけたりすると。

麻野 ああ、なるほど。ダブルでお得。

坂本 具体的にはどの曲ですか?

福田 『おさわりシステム』(Disc1:7曲目)ですね。これもまた感情がないじゃないですか。

中嶋 そうですよね。

福田 多分、5回くらいとり直すかなと思ってたんですけど、意外にはまっちゃったっていうか(笑)

麻野 これは比較的、じゃあ、スルっと。

福田 そうですね。このあと実は曲自体は展開があるんですけど、そこはざっくりカットして。

坂本 うーん。そのカットした部分も聴きたいですね。

福田 (笑)

坂本 僕、『届かぬ想い』(Disc1:23曲目)とか早かったですね。

中嶋 へえ。

坂本 僕、ピアノ弾いて作るんですけど。

麻野 これもいい曲。

坂本 これはパラパラパラって弾いて、「あ、できた」と思って。

福田 へえ。

坂本 そこからストリングスアレンジをして、結構この中でも早くできた曲です。こういう曲は、あんまり考えちゃいけないと思って。

中嶋 特にこういう曲はそうかもしれないですよね。

坂本 他には、後ろの和声をあんまり動かさず、ソロのメロディー立たせるような感じっていうのは、意外とそんな時間かからないでできます。

福田 これは完全にクリックなしで?

坂本 クリックありですねぇ、僕が作るときはいつも。

福田 やっぱり生録りなんですね。弦とピアノで。

坂本 ピアノは今回打ち込みですけど、弦は88642という編成での生録りですね。僕の場合、意外とメロディーレスだったりするもののほうが時間がかかったりしちゃいます。

中嶋 へえ。

麻野 いやいや、そっちのほうが難しいんじゃないですかね。

坂本 難しいんですよ。無機質というか、感情伝えない曲の作り方っていうのは、逆にすごく頭を使いますね。

麻野 ただそういうのがむしろゲームの中では利用されますよね。

『届かぬ想い』みたいな曲はここぞのところしか使えないんで。多分、使えてもストーリーの中に1回か2回。

坂本 その辺は、どの曲も生みの苦しみ味わってるんです。最初『思案』ということで発注いただいた曲なんて、何度も聴き返すうちに「これ…なんか違う!」とか思い始めてしまって「これは『思案』という感じじゃないから『疑惑』(Disc1:13曲目)という曲にして使用してほしい」みたいなこと、言ったりしたと思うんですけど。

中嶋 そうかな、うん。

麻野 この辺は、ガンガン使いますよね。もう何回も何回も使うんで。そういう意味でいうと、やっぱり生みの苦しみがあるほど耳に触れる数は多いんじゃないですかね。さっきみたいないわゆる名曲的なやつって、そんなしょっちゅう使うと安くなっちゃうんですよね(笑)。「また感動してるよ」みたいな(笑)

一同 (笑)

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