「勇者のくせになまいきだ。」の音楽ができるまで。(前編)

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勇者のくせになまいきだ。これは2007年12月6日にSCEさんより発売されたPSP「勇者のくせになまいきだ。」の音楽が完成するまでの貴重なドキュメンタリーである。

2007年初夏。
SCEの山本さんとアクワイアの中西さん、そして僕。
会議の題目は「勇者のくせになまいきだ。」の音楽をどうしよう、だった。

なにしろ、ゲームの企画がとんがりまくっていたので、サウンドが普通でよいはずがない。
8bit系のピコピコじゃぁまんまだし、かといっていわゆるロープレのゴージャスなオーケストラ…というのも逆手を取っていそうで、意外に「普通」に落ち着きかねない危険があった。

「大合奏」の提案を最初にしたのは、山本さんだった。

山本さん 「じゃぁ、小学生集めて、みんなで合奏するってどうかな?」
中西さん 「いいっすねーゲームの内容に合う気がしますし」

二人が、僕を見ている。
とっさにこう答えた。

坂本  「で、でも小学生ですよね?学校どうします?休んで練習させるんですか?そのせいで「うちのぼっちゃまが私立の中学入試に合格できなかったざます!」って親に怒鳴りこまれたらどうします?それにギャラの支払いはどうしましょう?契約は小学生全員としなくちゃいけないんですかね?そもそも小学生に機密保持って可能なんでしょうかね?あ、ちなみにですね、僕が小学生の頃はとにかくおしゃべりで、大事なことや秘密のことでもなんでもしゃべって親とか先生とかによく怒られ(中略)とにかくですね、小学生に演奏してもらうっていうのはかなりの労力がかかる割に、よいものも出来ないような気もするんですよね?そう思いませんか?そう思いますよね?」

つくづく自分は夢のないつまらない男だと自覚。
子供の頃は、こんな大人にはなりたくないと思っていたはずなのに。。。

そんなわけで、まぁ難しいことは置いておいて要するにノイジークロークのスタッフみんなで
演奏しよう、ということになった。

楽器は小学生が授業で使う楽器たち。
リコーダー、ピアニカ、大太鼓、小太鼓、グロッケン、ヴィブラフォン、木琴、トライアングル、
カスタネット、シンバル、ジングルベル、タンバリンそしてピアノである。

作曲や編曲は、新進気鋭のはまたけしくん。クオリティは申し分ないことはわかっているから、
ここは一安心。問題は演奏だった。

6月。ノイジークローク社。照りつける日差しの中、スタッフ大集合。
何も言わず集められたスタッフにいきなり楽器が手渡される。
一同、シーンとなる。「なになにー」「こわーい」「意味わかんなーい」

坂本、登壇。
坂本 「みんな、静粛に。今日みんなに集まってもらったのはほかでもない」
一同 「(ごくり…)」

坂本 「みんなでアンサンブろう!」

僕のダジャレにどん引きだ、ってことはわかった。

その後窮地に追い込まれた坂本は、真面目に「勇者」がどんなゲームか、
どんな音楽の方向性にするかを説明する。
それぞれのスタッフが、徐々に自分の置かれた状況を理解していく。

湯川 「な…なんで、ぼくリコーダーなんですか?」
坂本 「だっておまえ、音大でフルート吹いてたんだろ?リコーダーも、おんなじようなもんだよ」
湯川 「全然違いますってぇー!しかも3本のリコーダー、バロック式とジャーマン式が混在してるじゃないですか」
坂本 「あー、あったなぁそういえば、そんな様式」
湯川 「いやいや、運指が違うんですよ!こりゃー演奏しにくいっすよ!」
坂本 「大丈夫だ。君ならやれる。期待しているよ」
湯川 「むちゃくちゃやー」

加藤 「僕、グロッケンですか?」
坂本 「そうだよ。第一印象からずっと思っていたよ…君はグロッケンっぽいって…」
加藤 「…意味もわからないですし、グロッケンなんて演奏したこと一回もないですよ」

浅田 「お。大太鼓だ。簡単そうでラッキー」
嶋澤 「ジングルベルってどうやって持つの?」
蛭子 「タンバリンの関連書籍なんてあるんですかぁ」

湯川 「坂本さん、ピアニカだなんて、ちょっといいとこどりじゃないですか」
一同 「そうだそうだー!」
坂本 「いや、だってサウンドプロデューサーだし。ほら、目立ちたいじゃん」
一同 「ずるいっすよー僕らだって、もっと目立つ楽器やりたいですよー」
坂本 「うっさいうっさい!文句があるなら、秘書を通してくれないと」
一同 「うちの会社、秘書なんかいないじゃないっすかー」

…と、終始和やかで協調性に富んだ第一回目の打合せが終了した。

このあとに、とてつもなく楽しい練習と収録が待っているとは知らずに…。
(つづく)

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